いつそれを”恋”と名づけるのか?:恋のときめきと怖い体験をした時のドキドキは同じもの
恋をすると胸が高鳴り、呼吸が乱れることもあります。恋のときめきは、たんなるたとえではなく、実際の生理反応をともなっているものです。
紀元前一世紀のローマで書かれた男性向けの恋愛指南書のなかに、女性の征服法として剣闘試合に連れていくことをすすめたものがあるそうです。血みどろの闘いを見せることが、陥落させたい女性のうちに恋愛の情熱をかきたてるいい機会だというのです。
二十世紀の心理学者は、このことを情動的興奮ということばで説明しています。不安や恐怖のような情動的興奮をかきたてる恐ろしい体験は、心臓がドキドキしたり、呼吸が速くなったり、冷や汗が出たりという生理的反応を引き起こします。このような反応は、恋のときめきとまったく同じ生理反応なのです。
それを恋と名付ける理由 つり橋実験
生理的な反応に対して、それがいったい何によって引き起こされたのか、わたしたちは、あとから結論づけます。怖かっだからドキドキしたのか、恋をしたからときめいたのかは、あとから判断がくだされるのです。もし、目の前に魅力的な異性がいれば、ドキドキはその異性に恋心を感じたからと考えられるでしょう。剣闘試合を見ている女性は、恐怖によって引き起こされた興奮を、連れの男性に対して恋心を抱いたからだと解釈してしまうのです。ローマの恋愛指南書の著者は、このことを経験的に知っていたというわけです。
アメリカの心理学者らはことを実験によって確かめました。その実験とは男性の被験者に危険なつり橋を渡ってもらい、そのときにつり橋の上で出会った女性をどう感じるかを調べたものです。実験では危険な急流の上にかかった狭いつり橋とごくふつうの安全な橋を渡った男性たちを比較しています。
その結果、危険なつり橋を渡った男性たちのほうが、安全な橋を渡っ男性たちよりも、はるかに橋の上で出会った女性に強い興味を示し、その後も彼女に接触しようとした者が多かったそうです。
危険なつり橋を渡った男性は、そのときに引き起こされた胸のドキドキを、目の前に現れた女性に魅力を感じて生じたものだと解釈したのです。
恋というレッテルを貼り
わたしたちは、たとえ胸のドキドキが不安や恐怖によって引き起こされたものであったとしても、それに「恋」というレッテルを貼ってしまうことがあるのです。そして、いったんレッテルが貼られたならば、恋の情熱が高まることになるのです。
交際を始めてまだ間もない恋人たちが、デートのときにジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷に行ったりは、ふたりの情熱を高めるためには効果的であるといえるでしょう。実際、恋人たちは、そういうことを無意識にやっているのですが。いくらか慣れ合ってしまったカップルも、一緒にドキドキするようなスリリングな体験をしてみるといいですね。ダイビングやスキーなど多少危険がつきまとうスポーツを異性と一緒に行えば、その後の関係が恋に発展する可能性は大きいでしょう。
最初から、女性をモノにしようと考えている男は、どこかで女性の攻略法について書かれた本など読んで、このレッテル貼りを利用しようとしているかもしれません。