アニマ・アニムス
一人の人の中にある
男性性と女性性について
すべてのひとの内面には、男性性と性女性性の両面面が存在しているといわれています。
男性は潜在的に女性的な面をもっているし、女性は男性的な面をもっている。古代ギリシヤの哲学者プラトン
の『饗宴』へのなかで語られているアンドロギュノスの神話のように、ひとはみな本来が男女両性有的存在であるというのです。
無意識の底に潜む深層心理の研究でフロイトと並び称されるユングは、男性の内なる女性性が人格化され、男性の無意識のなかに女性像として出現し、同様に女性の内なる男性性が人格化され、女性の無意識のなかに男性像として出現することを認めました。
ユングは人間の無意識には、個人的な体験にともなって抑圧された個人的無意識の層と、ある文化や社会、民族に共通な無意識から、ひいては人類一般に共通する普遍的無意織の層が存在すると考えました。男性のなかの女性性のイメージ、女性のなかの男性性のイメージは、個人的な体験を越えた（人類共通の）普遍的なものであると考えていました。
そして、これを「元型」（アーキタイプ）と名づけ、男性の心のなかに生じる女性像の元型を「アニマ」、女性の心のなかに生じる男性像の元型を「アニムス」と呼びました。
内なる男性像と女性像
アニマ・アニムスは個々の異性の存在を突き抜けた、異性そのもののイメージといってもよいでしょう。アニマは男性のもつ女性についてのイメージであり、アニムスは女性のもつ男性についてのイメージなのです。
恋をしたとき、この内なる男性像、女性像が、その相手に投影されることがあります。たとえば、ある女性に恋をした男性は、現実のその女性の性質とはほとんど何の関係もない女性像の元型をそこに見いだすでしょう。これがアニマなのです。
女性の場合も同様のことがいえます。ある男性に恋をしたとき、あなたは現実の彼の性質とは関係のない男性像をそこに見出しているのかもしれません。付き合いが始まり、次第に相手のことがわかってきたとき、「そんな人だとは思わなかった」ということがあるとすれば、それはあなた自身の内なる男性像「アニムス」を、相手に投影していただけなのかもしてないということです。
アニマ・アニムスは人間の意識と無意識の間を結ぶものであり、自分自身の無意識のうちにあるものが人格化されたものと考えられます。
男性が男性としての自我を確立しようとするときには、内なる女性性の元型であるアニマは抑圧され、女性が女性としての自我を形成していく場合には、内なる男性性の元型であるアニムスが抑圧されることになります。
この自己のなかの抑圧された異性像の存在に気づき、アニマ・アニムスと対話することは、自我の成長と潜在能力の実現にとっては非常に重要なことだと考えられています。自己のなかの異性像を救済することが人格の統合につながるというのです。
その一方、潜在的な男性性や女性性を一挙に顕在化させ、アニマやアニムスに同一化することは危険だともいわれています。男性は非男性化し、女性は非女性化してしまうからです。
ディアナコンプレックス
「男らしさ」「女らしさ」が役割として規定され、男性的な特質の方が女性的な特質よりもすぐれたものだとみなされてきた男性中心社会では、女性が男性に対抗しようとすれば、女性性を生かすよりもむしろ、女でも男と同じ能力があるのだということを示さなければなりませんでした。
そこで自らの男性性のイメージであるアニムスと同化しようとして生じるコンフレックスがあります。それがディアナコンプレックス”と呼ばれるものです。ディアナはギリシヤ神話の狩猟の女神アルテミスのローマ名です。
ディアナが水浴をしていたとき、仲間と狩猟に来ていたアクタイオーンにその姿を見られてしまいます。ディアナは怒り、アクタイオーンを牡鹿に変えてしまいました。ディアナの怒りは自分の飼っていた犬たちに、悪態おーんを八つ裂きにさてしまうまで解けませんでした。ディアナは男性を寄せつけずに独身を通しました。
逆に、ディアナコンプレックスを完全に抑圧してしまっている女性は、自立心にとぼしく、個性に欠ける場合があります。ただ、そのためかえって男性からは女らしいと好感をもたれることもあるのです。
中年期以降、女性は内なる男性性を開花させ、女性性と男性性の調和を図り、男性は内なる女性性を開花させ、男性性と女性性の調和が図られていくことが、内面的にも対人関係においても豊かな人生が送れると考えられます。
いつまでも男性性だけで、男らしさから離れようとしない男性は年をとってもどこか未熟な感じがします。同様に、年をとっても女性性だけが前面に出ている女性は、どこか未熟な感じがしませんか？