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天空不動産は
プラトンのイデア界



ドラマ『おっさんずラブ』 あらすじ

 2018年4月21日から6月2日までテレビ朝日で放送されたドラマです。

「天空不動産」に勤める春田倉一(田中圭)は、上司の営業部長黒澤武蔵(吉田鋼太郎)から思いを寄せられます。春田にとって、仕事のできる黒澤部長は理想の上司でした。

 あることがきっかけで、春田は黒澤部長からら告白されることになります。

 「お人よし」だけが取り柄の春田にとって、それはまさに「えー!」という青天の霹靂。思いもよらなかったことです。しかも、相手は仕事のできる有能な上司。しかも、男です。

 その一方、春田は実家で母親と暮らしていましたが、母親が家を出て行ってしまい、部屋が余っているからという理由で、部下の牧凌太(林遣都)とルームシェアを始めていました。牧はずぼらな春田と違って、料理が得意で部屋の片づけなどもテキパキとやります。

 初めはただの「ルームメイト」と思っていた春田と牧の関係にも、何か特別な感情が生まれ始めました。春田には、彼女の兄が居酒屋をやっている、幼馴染で恋人未満の荒井ちず(内田理央)もいます。

 春田への思いを遂げるため、長年連れ添ってきた妻蝶子(大塚寧々)に離婚を切り出す黒澤部長。複雑な思いを抱える牧。牧の元交際相手の出現……。

 「えー!」揺れる春田の心。そして、恋のゆくへは?

 というわけですが、これは「おっさんずラブ」という変なタイトルですが、男性同士の愛を描いたドラマです。

 ドラマの制作にあたりLGBTの人たちを傷つけないよう表現などには繊細な配慮がなされたということですが、おそらく誰が見ても、気持ちがやさしくなれるようなドラマに仕上がっています。

『おっさんずラブ』⇒テレビ朝日HP

 

 さて、同性同士の恋愛は同性愛と呼ばれます。

 欧米の社会は同性愛に不寛容で、しばしば社会的な制裁が加えられてきました。現代では、次第に同性愛が一つの愛の形として受け入れられるようになってきてはいますが、まだまだ社会的に不寛容なところもあるようです。

 しかし、同性愛は古代ギリシャの時代から知られていた愛の形態です。古代ギリシャでは、同性愛は是認され、プラトンのような偉人な哲学者たちは、若い男性の美しさを賛美し、同性愛を積極的に評価していました。

 同性愛は異性愛よりも高貴で価値あるものとみなされていたのです。プラトンの師ソクラテスもギリシャの若い青年を口説いていたと伝えられています。

 日本でも昔から「男色」の習慣があり、とくに16~18世紀は少年愛の最盛期だったと言われています。武家社会では、”若衆の道”と呼ばれていました。

 女性同士の愛も古くから知られていました。女性の同性愛は、男性同士の愛とは別の名で呼ばれてきました。その名の由来となったのは、ギリシャの女流詩人サッポー(サッフォー)が住んでいたレスボス島という島の名前です。サッポーは若い女性たちを集め、文芸・音楽・舞踊などの教育を行っていたと伝えられています。そして、サッポー自身が乙女たちへの熱烈な愛を歌った詩を数多く残しています。

 プラトンは同性愛の中でも、相手の肉体を愛する愛よりも、精神を愛する愛をより高次の愛として賞賛しました。プラトンは真の実在はイデア界にあるとしました。私たちが肉体を通して感覚している世界は、真の世界ではなく影のようなもの。真の世界はこういった感覚世界を超えた新実在の世界であり、それがイデア界なのです。

 じつは、『おっさんずラブ』は、このイデア界の愛を表現しようとしていると解釈できるのです。

 余談ですが、LGBTを「生産性がない」という言葉で表現した政治家がいましたが、それは新実在の世界からかけ離れた、現象世界の価値観です。
 

 

『おっさんずラブ』は形而上学(けいじじょうがく)的なドラマなのです。『おっさんずラブ』がプラトン的イデア界の愛を描いたドラマであるという証拠は、春田が勤める会社の名前が指し示しています。

 「天空不動産」  イデア界とはまさに天上世界のことなのですから。

 それゆえ、天空不動産に勤める人々は、春田と部長の関係を知っても、ネガティブな反応はしめしません。登場人物はみな、愛を信じています。信じられる愛とはイデア界の愛だからです。

 形而上学って何?ということですが、形而上学metaphysicとは、万物の根本原理を探求する学問のことです。

 ちなみに、性的な関係を持ったの、持たないの、相手が金持ちだ、玉の輿だ、恋に打算が働いたの、焼きもち焼いたのというようなのは、下世話な恋愛関係であって、これは形而下(けいじか)的な話だということになります。

 ネタバレになりますが、このドラマではみなそれぞれにふさわしい愛を獲得していきます。だから、視聴者の心にやさしく響く。なんだかよくわからないけど、愛っていいな。・・・と。

 どろどろした関係とか、肉欲にまみれた愛とか、嫉妬や恨みつらみ、こじれる人間関係が描かれたドラマより、ずっといいな。・・・と。

 天空不動産は、真実の愛を映し出す愛のイデア界。そして、このドラマは形而上学的な愛を描いているのです。

 『おっさんずラブ』は映画化されるそうです。映画でも、イデア界の愛を味わってみたいものです。

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